サッカー日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズ(PG)の若手選手2人が、三重県鈴鹿市内の路上で転倒してけがをした高齢者を助けた。それから、お礼の手紙が届くなど交流が続いている。昨季は不祥事が相次いだクラブだが、「信頼を取り戻す小さな一歩になれば」と関係者はいう。
鈴鹿市内で3月28日の午前中にあったクラブの練習後、今季加入したDF石川竣祐(しゅんすけ)選手(22)とMF小野寺亮太選手(23)は、車で帰宅する途中、市内の旧跡・加和良神社の近くを通りかかった。
そのとき、人が木の根につまずいて転び、顔を地面に打つのが見えた。救急車を呼ぶべきか――。車を止め、2人は慌てて「大丈夫ですか」と駆け寄った。転んだのは鈴鹿市江島本町に住む吉村早苗さん(70)。2人は吉村さんの友人らに頼まれ、約3・5キロ離れた吉村さんの自宅まで車で送り届けた。吉村さんは、あごと右腕にけがをした。
別れ際、名前をたずねる吉村さんに、2人は「鈴鹿PGの選手です」と自己紹介した。翌週、吉村さんはクラブの事務所を訪れ、お礼の手紙とお菓子を届けた。手紙には「感謝しています。ポイントゲッターズ頑張ってください。応援します」と書かれていた。
思いがけない形でサポーターになってくれた――。石川選手は「大学時代はコロナ禍でずっと無観客だったので、地元の人と直接ふれ合えたのがうれしい」と振り返る。
鈴鹿PGは、元日本代表FWで常に脚光を浴びる存在だった三浦知良選手(56)が今季開幕前に退団。今季は平均年齢25歳と若返ったチームで臨み、リーグ戦は3勝2敗2分けで、15チーム中5位(第7節終了時点)。小野寺選手は「ボールを支配して主導権を握る、目標の『JFLで一番面白いサッカー』に近づいている」と手応えを語る。
クラブでは、ピッチ外での信頼回復も急務になっている。昨季は八百長未遂や監督の暴力行為など不祥事が相次いで発覚。クラブ側の資金で市内に建設をめざしていたスタジアム計画も頓挫した。
信頼回復の途上で起きた選手による救助劇。2月に就任した渡辺淳社長は「こうした交流を通して一日でも早く信頼を取り戻し、地域とともに歩むクラブに生まれ変われれば」と話す。
4月下旬、石川、小野寺の両選手が、吉村さんの家族が経営する電器店を訪ねると、すっかり元気になった吉村さんがいた。そして、店内にはチームのポスターが貼られていた。
「もっと若い子だったら助けたかいがあったのにね」と吉村さんから冗談を言われ、はにかんだ2人。
石川選手は「ファンと選手の距離が近い鈴鹿でプレーできてよかった」。小野寺選手は「より多くの人に試合に来てもらい、喜びや悔しさなど様々な感情を共有したい」と話していた。(松原央)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル